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店を出ると、冷たい夜気に包まれる。
冬の風に前髪がなびいて額を打った。
並んで歩きながら、いつものように手を繋いで、しばらくすると蜜柑色のマフラーの上にある顔がこっちを見て言った。
「このまま送って行こうかな?ね、ユマさん」
つまり、もっと一緒にいたいって意味。
「うちまで送ってたら、帰りが遅くなるよ?」
やんわりと、一度断るポーズを取って控え目な感じを演出してみる。
「オレは男だから遅くてもヘーキ。ユマさんの方が心配でしょ?」
「ね」
と重ねて言われて頷く。
彼が嬉しそうに笑う。
繋いだ手が心持ち彼の方へ引き寄せられて、二人の距離が近付いた。
もうちょっと、今日のデートは延長だ。
なーんて。
どこから見たって恋人同士みたいなことをしてるけど、
彼は本当は彼氏なんかじゃない。
正しくは、彼氏(役)。
もしくは、彼氏(仮)。
そして、なにより────
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