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街中には、大勢の人が歩き道を作っている。その中に混ざり歩く二人のカップルがいた。遥と雪だ。二人の目的は、町の中心であるタワービルに隣接して建っている45階建ビルの屋上だった。眺めも快適なその空間は、移動手段の一つとしてよく二人が利用している。
「私は、下から行くからね。」
「んじゃ 俺は、上から行くわ。」
雪は、最上階から体を投げ出した。下へ下へと体が降りて行く感覚は、快楽に近いものがあった。一方 遥は、絹のように細い糸を使ってタワービルに向かっていく。普通なら切れそうなものなのだがこの蜘蛛の糸で作られているそれは、切れる気配を感じさせないでいた。雪は、目を閉じた。自分の身体が重力に応じて下へ落ちていく感覚を楽しむためであり、この感覚は、生きているということをいつも教えてくれる唯一のものだった。
「さて ショータイムの始まりよ。」
タワービルの正面玄関についた雪は、黒服の警備員が3人いることを確認すると小さなマイクとイヤホンをウェストポーチから取り出した。
「遥。状況は?」
かけた先は、タワービル最上階にいる遥だった。
「絶好の景色にして通信良好。屋上の扉に防犯カメラと対人センサー発見。」
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