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彼女の口元がおかしかった。
肌の色が黄ばんでしまうのはいかんともし難かったが、それでも表情や皮膚の状態に関しては細心の注意を払って手入れしていた。
防腐剤も定期的な注入のみならずこまめに塗布している。
いなくなってこの十日間、特にこの点を心配していたのだが腐敗や損壊は大丈夫なようだ。
違和感の正体は彼女の口をこじ開けるために指を入れた時の感触ですぐに分かった。
「お前、ボタンなんか……」
言いながら気付く。
このクローゼットに隠れていた彼女にはコートの一番下のボタンしか届かなかったのだ。
遊び、のようなものだったのだろうか。
だけどその様を見た私の胸には後悔と懺悔の気持ちが沁み渡った。
あの時
ささいな諍いから発展したケンカで彼女を殺してしまった後で
どうして多少の無理をしてでもその全身を保存しておいてやらなかったのだろう。
ケイコの頭部以外の身体は、私が処理をして下水へと流してしまったため、もうこの世界には存在しないのだ。
「ごめんな、ケイコ」
不憫でならない愛しい女。
私は彼女が口に含んでいたボタンを残らず指で掻き出してやってから、その黄色い唇にキスをした。
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