ボタン

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靴を履こうとして俯いた拍子にコートの裾が目に入った。 昨夜は結局ボタン付けを諦めて眠ってしまったため、今朝袖を通したのは昨日着たのと同じ厚手のコートだった。 「コレもか……?」 このコートも一番下のボタンが取れていた。 クリーニングから戻って来たままだった物を昨日の朝に着たのだから、ボタンが取れたのは昨日なのだろう。 それにしても連日に渡って同じ場所を引っ掛けてそれに気付いていないなんて、よくよく私は不注意なようだ。 余程ぼうっと歩いているのだろう。 それとも知らず知らずの内に習慣化している何らかの行動が、一番下のボタンを引っ掛けるようなものなのだろうか。 だがいずれにしても今の私には、推理を働かせる時間もコートを着替える時間もない。 どのみちボタンを留めなければ目立ちもしないだろう。 私は諦めてそのまま家を出る事にした。
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