ボタン

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「コレも……」 さすがにボタンが取れたままのコートが二着となると、放っておくワケにはいかない。 そうは思っていたのだが昨夜は、寿退社をする同じ職場の若い女の子の送別会があり、二次会まで参加したために帰宅後はそのままベッドに倒れ込むように眠ってしまったのだった。 着の身着のまま寝ていたせいで、今朝は寒さで目が覚め、浴槽に湯をためながらシャワーを浴びてヒゲを剃った。 幸いなことに酒は残っておらず、風邪をひいた感じもしない。 私は妙にぽっかりと空いた朝の時間でコーヒーを淹れてトーストを焼き、久しぶりの朝食を取った。 それから思い出して、三着目にと細いヘリンボーン生地のグレーのコートを引っ張り出した。 これはケイコに見立ててもらった物だ。 そしてそれを広げてみた時に思わず出た言葉が、先の台詞だったのだ。 やはりこれも、一番下のボタンが取れていた。 この冬まだ一度も袖を通していないコートだ。 昨冬の終わりにクリーニングから戻ってきたものをビニールのカバーだけを外してクローゼットに放り込んでからは一度も触っていないはずだ。 私が着ている時に取れたのでなければ、犯人はクリーニング店だろうか。 それも一番下ばかりが取れているということから考えると、クリーニングの工程的な問題なのかも知れない。 時間はあっても、出勤前から針仕事をしようという気にはならない。 私は身支度をしながら、あまり着ることのないほとんどクローゼットの肥やしになっていた四着目の黒いコートを引っ張り出す。
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