ボタン

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ありえるだろうか。 ありえたとしても何故金品を盗むのではなく、わざわざコートのボタンを一つだけ取る必要があるというのだ。 そしてそれは一度だけの犯行であったのだろうか。 例えば、何らかの手段で我が家の合鍵でも作ったとすれば、犯人は私のいない時ならば、好き勝手に家に上がり込めるのだ。 それが単なる妄想であるとは分かっていても、地中から連なった芋を掘り起こすかのように次々と、悪い可能性を考えてしまう。 全てのコートのボタンを一つだけ取ってしまうというのは何らかのサインなのだろうか。 それは私に宛てた悪意あるメッセージや、犯行予告の類などではないのか。 いや、どうしてコートだけだと言い切れるだろうか。 今回の件でようやく私が気付いただけで、本当は他の衣服もボタンを切り取られているかも知れないのだ。 ――あるいは衣服のみに限らないのではないか その可能性を思い付いた途端、居ても立ってもいられなくなった私は家に向かって駆け出していた。
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