ボタン

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家に辿り着き、カギを開けて中に入る。 もどかしい気持ちで蹴散らかすように靴を脱ぐと、玄関から続く、大股なら四歩で突き当たりのリビングへと着いてしまう短い廊下を進み、その途中、右手のクローゼットのある部屋へと向かう。 二歩だった。 廊下を二歩進んだところで目的としている部屋からどすん、という物音が聴こえたことに気付いた。 この時点で、手を伸ばせば件の部屋のドアノブを握ることのできる位置にいた。 物音に気付いた瞬間に硬直した身体とは違って、頭はその瞬間に状況を理解した。 つまり金曜日である今日は、本来ならば私は仕事に行っていてこの家にはいないのだ。 そして、私の留守中を狙って、ボタンを取るというこのイタズラを行ていた犯人も、今日は私は家にはいない、と思っていたのではないだろうか。 ――鉢合わせ その状況に気付き、私の全身から一気に冷たい汗が噴き出す。 「ケイコは」 自分の声が自分の耳に届いてから始めて、胸を占めていた毒霧のような危惧を自分が口に出していたことに気付いた。 ――もしかするとケイコは自分の意志で出て行ったのではなく……
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