第四章『一年目・アピールの末』

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サウスポーは、斜めから振り下ろすスリークォーターか、横から振り抜くサイドスローが主流だ。 これはサウスポーに求められる役割、スライダーとの相性から角度のついた投球が求められた結果であり、上から振り下ろすオーバースローは、意外と少ない。 速球派の代名詞と言える上から振り下ろすオーバースローで生き抜くには、速球にそれ相応の威力が求められる。 右でもそういない速球派。絶対数の少ない左では更に少ない。 小笠原はその稀少な本物の速球派サウスポーだ。 一昨年の高校野球で、麻生というサウスポーで当たり前のように150km/hを上回る速球を投げる投手が注目されたが、イニングに最低一人は四死球でランナーを出すなどコントロール難が課題でプロ入りしていない。 全力で投げるとどうしてもモーションが大きくなることからコントロールが付きにくくなる。 実は小笠原も、それほどコントロールが優れているとは言い難い。沖田への初球が高めへ行ってしまったのも、彼にしてみればいつものことだ。 それでも小笠原は力で圧す。 力で、捩じ伏せる。 二球目も速球。 沖田も手を出すが、初球と同じ高めの球に、完全に振り遅れている。 三球目も高め。これは大きく外れ、沖田も流石にこれは見送る。 が、三球で三振ではなくなっただけ、四球目の速球にバットが空を切り、三振という結末だけは変わらなかった。
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