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これまで、自分の打席に備えてベンチにいる時からヘルメットを被り、バットを持って気持ちを昂らせるーー又は逆に気持ちを落ち着かせる打者は何人も見てきたが、キャッチャーマスクを被りながらは見たことがない。
ほとんどの場合、ふざけているとしか見られないだろう。
だが、彼は大真面目だ。
ふざけている人間が、こんなにも鋭い威圧感を纏いながら対戦相手を見据え続けるなんてことを出来るはずがない。
もしも高校野球辺りの環境でこれをやっていたら顰蹙ものだろう。真面目に野球に取り組めと、きっとお偉いさんから雷が落とされる。
しかし、彼にとってあれが何らかの精神集中方法なのだろう。
（昔剣道の類いでもやっていたのかな？ だからある程度視界が制限されると集中できるとか）
沖田にはそれくらいしか思い付かなかった。
九回裏。
白組の先頭打者は八番の沖田。
右打席に入り、バットを構えるがその構えが小さいことにそこにいる誰もが気付き、理由を察した。
小笠原の速球に対応しようとミートすることを最優先にしているのだ。
その様子を小笠原は静かな視線で見ていた。
そうだった。プロ入り前はこれが当たり前だった。
そして、あの時もこうやってきたんだ。
これぞ速球派と言わんばかりのダイナミックなオーバースローから投じられた初球は真ん中高めへの速球。
コースだけを見れば甘いが、ボールの威力が甘さを打ち消す。
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