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時々鼻を鳴らしていびきをかいていた。
貴愛はソファに座り、自分の膝に頬杖をして笑った。
「……こりゃ明日、記憶失ってるパターンだな」
早朝、貴愛が眠っていると、歩に無理矢理起こされた。
貴愛は眠気眼をこすり時計を見た。
「……なんだよ、こんな時間にぃ…」
「古家! 出かけるぞ!」
「はぁ? どこに?」
「映画だよ、映画! こないだ見たやつの続編だよ!」
「は!?続編? 嘘だろ?まだそんな時期じゃないぞ」
歩は興奮した様子で窓のカーテンを開けながら言った。
「俺も知らなかったんだけど、あの映画、前編と後編で別れてて、
俺たちが見たのは前編だ。後編がもう公開されてるんだよ」
「………それにしても早いような気がするけど…」
「いいから早く用意しろ! 今日は天気がいいな」
貴愛は布団から起き上がり、寝癖の付いた頭を掻きながら言った。
「………今日、夕方から降り出すって、昨日予報見たけど」
「……………」
歩は両手を腰に当てた姿勢のままで、窓の外を見ながら静止した。
沈黙が流れた。
「…………今日は天気がいいなぁ」
「……シカトかよ…」
歩はパソコンを立ち上げると、
上映時間を調べ始めた。
夜勤明けにしてはずいぶんと元気がいい。
というかテンションが高かった。
貴愛は結構珍しいよな…、と思った。
その日、二人はポップコーンとジュースを買って、
朝一番の上映を観た。
映画館を出ると、やはり貴愛は楽しそうに色々と感想を話していた。
この顏が見たかった。
今の所、歩は貴愛を喜ばせる方法を、
映画館に連れて行く位しか知らなかった。
休憩時間にふと携帯で映画館を検索して調べると、
後編が上映してるのを見つけた。
連れて行きたい。連れて行くしかない。きっと喜ぶ。
そう思うと歩は仕事をいつも通りにこなす反面、
仕事が早く終わる時間にならないかな、
と急くような気持ちを抑えきれなかった。
早く帰って貴愛に報せたくてしょうがなかった。
歩は、貴愛の楽しそうな顏を見て嬉しかった。
貴愛は、自分が何を言っても笑顔で「そうだな」と答える歩の顏を見て嬉しかった。
***
楽しい日々が続いていた。
歩は毎日が充実しているような、
高揚感と安心感と幸福感を感じていた。
次はいつ映画に連れて行こう?
この前は興奮して誘い方も強引だったし、
今思えばもっと誘うのを躊躇して然るべきだった。
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