1033人が本棚に入れています
本棚に追加
「…その取引を成立させたのは、どこです?」
そう尋ねてくると、俺の次の言葉を静かに待つ片桐。
…やはり聞いてくるか。
それはそうだよな。
取引をするとすでに決まっていたのに、まさか他社が入ってくるとは…。
これじゃまるで横取りだ。
そう思う俺以上に、きっと片桐は納得いかないだろう。
果たして、泉のことを覚えているだろうか?
俺が受け持った取引だったこともあって、あの時は、片桐と泉はあまり関わっていなかったはず。
会ったとしても、会議のときくらいで、数える程度だった。
片桐が俺を見つめるなか、ゆっくり口を開けた。
「…泉晃一を、覚えてるか?」
そう尋ねると、片桐の目が一瞬にして見開くのがわかった。
そして、何を思ったのか、俺から視線を反らす。
…ん?
なんだ?
俺の想像していた反応と違う。
…覚えてるのか?
「…片桐?」
俺の呼ぶ声に、ゆっくり視線が戻ってきた。
再び俺を見つめるその表情は、いたって冷静にも見える。
最初のコメントを投稿しよう!