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第三章
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榊の指が、私の肩に触れる。ドレスの肩紐をそっと滑らせた。
私を見つめる榊は、戸惑いとも逡巡ともつかない表情を見せる。
〈良いのか?〉そう問いかけている様にも見えた。
部屋までとって、二人で居る。それだけで充分にお互いの了解は出ている。
『社内で遊ぶような馬鹿な真似出来ないだろ』
何時だったか、どんな時だったかも忘れたが、榊の口からそう聞いた事がある。
プライベートは、仕事に持ち込まない。それが榊のスタンスだった。
殆どの社員は、榊の奥さんすら見かけた事も無い。
私もこれまでに見た事は無い。
榊を逡巡させるのは、そういった自分自身のポリシーに対しての迷いなのか、まだ別れていない妻への想いなのか?
躊躇いがちな榊に、私から身体を寄せて抱きついた。
綺麗事など、どうでも良い。今、この瞬間…私は、目の前のこの男が欲しかった。
それが、榊だからなのかどうか、私にもわからない。
ただ、私の中の女が、この男を欲している。それは、真実だ。
私が抱きついた事で、榊も思考を停止させたのかも知れない。
もう、私と榊の関係も、周りの状況も、昼間に会った若く美しい蒼も、今感じている衝動には敵わない。
榊は、私のドレスを夢中で脱がせる。私の指は、榊のシャツのボタンにかかる。
唇を重ね、舌を絡ませながら不器用にお互いの服を脱がせてゆく。
榊も私も、言葉は出さなかった。それが、妨げにしかならない事は、二人とも知っている。
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