第四章

4/40
前へ
/40ページ
次へ
蒼に住所が知れてしまう、そう思ったのだ。少しだけ悩んで、渡された用紙に配送先を記入する。 オフィスにでもと思ってみるが、個人的な品物を届けさせる事には抵抗がある。 週末を指定して、結局自宅の住所を記入する。蒼が知っているのは、名前だけだ。 もしも、気が付いたとしても、携帯の番号を教えて連絡を寄越さない私に興味など無いだろう。 そう考えれば、大した事では無い様に思えた。 少しの間、もう一度作品を見て回り、ギャラリーを後にする。 ついでに、欲しい物が出来たのだった。どうせあのカップを使うなら、美味しい珈琲が飲みたいと思う。 そうかといって、豆から淹れるのも面倒だと思う。インスタントに近いけれども、美味しくコーヒーが淹れられる物を思い出した。 ネスプレッソマシン、スーパーなどでも見かけていた。手頃な価格で、如何にも簡単なイメージだ。 基本的に物欲の無い私にしては、面白い連鎖だ。それでも、心が豊かになる気がして愉快な気分だった。 駅前の家電量販店を覗く、入り口にずらりと並ぶ携帯のコーナーを通り過ぎて、お目当てのコーナーに向かった。 一角に山積みされた、ネスプレッソマシン。その一つを抱えて、レジへと向かう。 蒼のカップと合わせても、スーツ一着分だろうか? これで、愉快な気分になれるのだから、安い買い物だった。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

900人が本棚に入れています
本棚に追加