第四章

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音も無く、蒼と私の間にある大きなガラスの仕切りが開く。 蒼は、一歩も動かない。ガラスの敷居を越えた私に、静かに、けれども澱みのない声で蒼が話し掛けた。 「すいません、こんな恥ずかしい真似はしたく無かったんです」 そうして、もう一度頭を下げてから、真っ直ぐに私を見た。 一瞬、蒼の行動に怯えた事を、後悔する。恥ずかしいと告げ、頭を下げている蒼に素直さと育ちの良さを感じていた。 それだけ、考えた上で此処に来たのだろう。恥じ入っているからなのか、蒼の顔は淋しげに映る。 肩の力が抜けて、私の口元が緩んでゆくのがわかった。微笑んでいる自分に驚いてしまう。 「私こそ…ごめんね」 自然と口をついたのは、そんな言葉だった。蒼が、とても自然に嬉しそうに微笑んだ。 駄目だ…その笑顔は、ずるい。多分この瞬間、私は蒼に惹かれた。 蒼は、大切そうに抱えた箱を、私に差し出した。 「ありがとう」 私が、それを受け取ったのと同時に、そう囁く。 もう一度、ニコリと微笑み。踵を返して、私に背中を向け歩き出す。 真っ直ぐに、ピンと背を伸ばして、迷い無く…離れてゆく。 「待って!」 その背中に、堪らずに声を掛けたのは私だった。
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