第六章

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榊の手が遠慮がちに背中を通り越して、私の脇腹に沿う。 身体ごとゆっくりと引き寄せられる、私は力も入れないで、その力に従った。 明るく照らされた室内。榊の表情がはっきりと目に入る… これ迄、見た事がない程優しい微笑みだった。大切にされているのだと、思えた。 軽く触れた唇、次第に大人の口づけへと変わってゆく。少しだけザラついた舌先が、私の唇を割って滑り込む。 口腔の全てを感じ取る様に、舌先が動き回る。唇の裏側も、舌の付け根も… この間の様な急激な高まりではなかった。滑らかに私の芯に火が灯る、心地良い感触が全身を包んでゆく。 即物的に抱き合いたくは無かった、折角灯った火を消したくは無いけれど、軽く彼の両頬を押し返す。 「シャワー浴びてくるね」 少しだけ不満そうな表情。けれどすぐに柔らかな微笑みがのぞいた。 「ああ、何か冷たい飲み物でも用意しておくよ」 ありがとう、そう応えて力の入らない身体を引きずるようにして、シャワールームへ向かう。
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