第六章

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バスルームを出ると、手持ち無沙汰な風にテレビのニュースを眺める榊がいた。 それでも、何か気に掛かる内容なのか、真剣な眼差しだった。四六時中色々な思考が飛び交う男。 私がバスルームから、出て来たのは当然気がついている。 コメンテーターと司会者の遣り取りが終わると、手元のリモコンのボタンを押した。 「俺も少しさっぱりしてくるよ」 すれ違いざまに、軽く頭をポンと叩く。その仕草で、多分テレビを眺めていたのは照れ隠しだと感じた。 そう云えば、榊は幾つだったろう。年齢を気にした事が無かった。確か十歳程離れていた筈だ。 四十半ば、そう考えると蒼は息子と迄いかないものの、それ程に違いがあるのだった。 「ふぅ~…そう。そんなに違うんだ」 失礼な話だと、一人で苦笑する。これから抱かれようとする男と少し前に抱かれた男を比べている。 榊が消したテレビをつけてみる、ニュース番組が流れているけれど、何も頭に入らない。 テーブルには、冷えたペリエとグラスが置いてあった。榊が用意してくれたのだろう。 冷たいペリエをグラスに注いで、乾いた喉に流し込んだ。 少し気になって、冷蔵庫を覗いてみる。ホテルの冷蔵庫とは思えない感じで、少し愉快だ。 缶ビールに野菜ジュース。何故だか、コンビニで買ったのだろうか、二種類のプリンが並べてあった。 一流のホテルを長期間借り切る男が、一人でプリンを食べている姿。 地位を得ても、有り余るお金を得ても、それは人生そのものの幸福とは関わりがないのかも知れない。 時間や、幸せや、苦痛や、あらゆる事は、誰かとシェアする事が大切なのだと感じてしまう。 バスルームから出てきたら、榊を抱きしめてやりたいと、そんな風に思った。
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