第六章

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不思議な事でもある。呼び方を変えるだけでも、距離が近づいた気がする。 「お前、照れてないか?もっとも俺の方が照れるけどな~」 滑稽な会話だと思う…良い歳をした男女が、名前を呼ぶだけで本気で照れている。 榊は私の肩に手を回して、そのまま覆いかぶさる様に、ベッドへ倒れ込んだ。 耳元で彼が囁く… 「なあ、もう一度名前呼んでくれないか…」 何もかも手にしている様に見える男、強くて、傲慢で、この上なく羨ましがられている男。 その癖、誰にも弱みなど見せられず、気分転換の方法すら知らない、寂しい男。 私は、両腕を彼の頭の後ろに回して、胸のあたりへ抱え込む。 力の抜けた榊の身体が、少し重たく私にのしかかる。愛おしいと思った。 「ふふっ、いいわ。何度でも呼んであげる…俊介」 胸の中で、甘えるような榊の仕草。充分に歳上の男に、母性が目覚める。 ゆっくりと髪を撫でる、榊の両腕は私の背中へ回り、まるで縋り付く様に少しの力が加わる。 何故だか、私まで幸福を感じていた。
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