第六章

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しがらみで仕事をする、そんな環境ではどうしても不利な状況が多い。長引く不況の中でそうしたスタイルは消えていった。 もちろん、私自身も変わったのだと思う。嫌な顔をされようが、背筋を伸ばし満面の笑みを讃えて確信を突く。 きちんと会話が出来ると、そう相手が判断を下した時には、より大きな信頼に代わるのだと思えた。 『お前は、男前だな』 榊の台詞は、的を得ているのだろう。そんな風に自立をしてしまった事で、甘え方のわからない、可愛げの無い女が出来上がったのだ。 考えてみれば、その一因は榊にある。気紛れで仕事を任せるから、こうなってしまったのだ。 私は、普通に恋愛をして、結婚をして…そうして子供が産まれたら仕事から離れるのだろうと、漠然と思っていた。 キャリアを積んで、一線で働くなどとは夢にも思っていなかった。 そもそも、榊の会社に入ったきっかけにしても、お客がストーカーまがいになってしまっただけだ。 今考えれば、些細な出来事だ。顧客優先という名目や、不祥事を嫌う銀行。それに対抗出来る行動力も、知恵も無かった。 可愛げの無い女と、男前は同義語なのかな? そんな取り留めのない事を、考えていたらとうに部屋を出なければいけない時間になっていた。
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