第六章

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足早に、エレベーターに乗り込んだ。地下鉄の駅まで、早足で歩かなければいけない。 ホールに下りて、マンションの外に視線を移す。見慣れた顔がそこにあった…呆れた、榊が迎えに来ているのだ。 「おはようございます」 榊の専属運転手、三浦がそう話しかける。 「おはよう、三浦さん」 三浦に変な態度を、見せるわけにはいかない。榊の事だ、何か適当に予定を伝えている筈だ。 黒塗りのセダン車。後部座席、黒い革張りのシートに身体を滑り込ませた。 榊は何食わぬ顔で、新聞を読んでいる。視線を其のままでいながら、話し掛ける。 「おお、悪かったな急で。朝一のお前の予定はずらしておいたから、心配するな」 「わかりました、社長。それで…ご用件は?」 三浦から見えない所で、榊の太腿を指先で抓る。 「まあ、急ぐな。お茶でも付き合え」 「ご冗談を、ご用がなければ会社におねがいしますわ」 「例の上海の奴が来てる。まあ、軽い顔合わせだ」 車は、榊が宿泊しているのとは違うホテルに到着する。ホテルのエントランスでは、少し小太りな若い男が榊を見つけて軽く手を挙げた。 「榊さん、急なお呼びたてで申し訳ありません。私から伺うべきなのに」 「良いさ、沈さん。このまま空港だろう?ついでに、うちの担当者と打ち合わせてくれよ」
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