第六章

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榊が、私を振り向いてニコリと笑う。電話もメールも寄越さずに連れて来たのは、悪戯心だろう。 けれども、寝てしまった私に対しての公私混同では無かった。 「佐野、沈さんだ。昨日帰る予定だったんだが、午前中時間が空いたらしいんで打ち合わせてくれよ」 丸顔で、童顔。大学は関西の国立に留学、父親は上海の役人。三十そこそこで、日本と中国に会社を持っている。 資料は読み込んでいた、何度かメールでも遣り取りは行っていた。 「初めまして、お会いできるのを楽しみにしていましたよ。榊さんから、優秀でしかもお綺麗だと聞いていましたから」 そう言いながら、右手を差し出す。 「こちらこそ、宜しくお願いいたします」 軽く握手を交わし、ホテルのラウンジへ向かった。 「酷いじゃ無いですか、こんな急に…」 先を歩く沈さんに聞こえないように、小声で榊に話し掛ける。 「そうか、お前が何も言わずに帰るから、ちょっとした嫌がらせだ」 愉快そうに榊が笑った。 「あら、あまりに気持ち良さそうに眠っていらしたからですよ」 「そうだな、久しぶり眠った気がする…」 真顔に戻った榊は、仕事モードに戻った様子だった。私も、それ以上その事には話を戻さなかった。
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