第六章

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榊の態度から、相当この男を気に入っている事が分かる。実際、日本語は少々たどたどしい物の、受け答えは的を得ている。 日本と中国でのビジネス展開に関する違い、それらを簡潔に伝える。クレバーな男、端的に言えばそんな表現がピッタリだった。 思った以上に中国でのビジネス展開は、障壁が多い。先ず、現地企業との合弁会社を設立する必要がある。 そうなれば、当然出資比率や役員、収益の配分など様々な問題が浮上する。 その表情を察した榊が口を挟む。 「佐野、そう心配するな。まだ本格的に進出するってわけじゃ無い。取り合えず、コネクションを作る事が先決だ」 「そうですよ、我々がパートナーになれるかどうか…まだ、始まったばかりです」 丸い顔で楽しそうに笑う。嫌味に感じないのは、体型や表情も関係しているだろう。 人として憎めないタイプだ、榊が気にいるのも無理は無いと思う。 「それでは、上海でお待ちしています」 フランクな会話で過ごした顔合わせだった。けれども、最後の締めくくりにキチンと足を揃えて深めにお辞儀をする。 そのメリハリが、強く印象に残る。間違いなく出来る男だろう。 「どうだ、面白い男だろ?」 面白い、榊の最上の褒め言葉かもしれなかった。 「そうですね、頭の良い人ですね。気を抜いたら、スコンとやられちゃいそうですね」 「ああ、そのぐらいの相手の方が仕事も愉しいだろう?」
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