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なる程、その通りだろうと思う。ワイン好きの財界人などでユキさんを知らない人は居ない。
テレビでしかめっ面で話している、財界の大物達がこの店で好々爺の様にしている姿を何度も見かける。
おそらく、ビジネスの現場を離れた実際の姿は此方なのだろう。
そうした、素の部分での彼らは一様に紳士だった。
「そうですよね、此処に来ると色々見えますもの」
「でしょ、皆さん可愛い人達なのよね。それで?あのお二人の事で悩んでるのね」
「まあ、そうかも知れません。でも、なんだか違う気もして来ました」
「違うって、何が?」
茶目っ気たっぷりの笑顔で、ユキさんが問い掛ける。
「二人とも、良い男なんですよね。多分、私には勿体無いぐらい…でも、良く考えたら自分がどうしてゆきたいか…ですよね」
「そうかもね。だって、えりさん…誰かを選んだ事で、自分の事変えられ無いでしょう?」
「そうですね、貴方色に染まります…なんて言えないですね。今更」
「そうなの、だから言ったじゃない。自分らしく居られる相手を選んだって」
「ユキさん…それ、完全にのろけですよね?」
「そうよ、私達みたいに可愛げの無い女はね~自分らしく生きるしか無いのよ。貴女もそんな男を選びなさい」
「愉しそうですね…なんだか、私の話はお酒のツマミみたい」
「あら。せめて、ワインのオードブルぐらいって、言って欲しいわね。ワインもそろそろ、飲み頃ね。乾杯しましょうよ」
グラスから、注いだ瞬間とは比べものにならない程、華やかな香りが漂よっている。
「何に乾杯ですか?」
「もちろん…可愛げの無い女に」
薄いワイングラスを持ち上げて、触れる寸前迄近づける。高価なグラスでは、そうする事も彼女に教えてもらった。
「そうですね、それじゃ。可愛げの無い女に…乾杯!」
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