第六章

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月曜日から飲みに出掛けるのは、稀な事だった。それでも、随分気が楽になったのも事実だ。 榊を選ぶか、蒼を選ぶか…そんな思いに囚われていたけれど、確かにユキさんに言われた様に私がどう生きるかなのだろう。 「自分らしくね…」 仕事は嫌いでは無い、それなりの権限に部下を抱えている責任や、その事に対する快感だってある。 今の自分が、事務職のOLであれば、多分結婚や出産と云った幸せを掴む為だけに、どちらかを選んでいるのだろう。 彼女達を蔑んでいるわけでは無い。寧ろ羨ましいのだと思う。出産だって経験したい、好きな男の子供を産む…それは当たり前の本能としてある。 仕事をする、それなりの立場を持つと云う事は、案外危険な快感なのかもと考えたりもする。 育児休暇や、出産に伴う制度は企業として整ってはいた。けれども、現実として考えればブランクを作る事で、元の立場に戻れる保障など何処にも無い。 足掻いて、もがいて、そうして自分の足で立っている。強固な基盤など存在しない悲しさと、現実は無視出来るものでは無いのだ。 漠然とした、将来に向けての不安はある。それは幸いにして、金銭的な事では無いけれど… いずれ、時が経てば現場を離れるだろう。その時に、私には何が残っているのだろうか? 榊程の成功を収めた男ですら、幸せとは程遠い気がしてしまう。 自分らしく居られるパートナー…それは、自分を見つめ直さなければ、手に入らないものだろう。 思った以上に、厄介な事なのだと思えてしまう。
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