第六章

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蒼からは、電話もメールも入っていない。私も連絡していなかった。 榊の事もあって、躊躇している部分もある。時計を眺める…零時を少し回った処だ。 もう寝ているだろうか?無性に、蒼の声が聞いてみたくなる… 電話してみようか、それとも携帯にでもメールしようか… それでも、何を話して良いのか分からなくなってしまう。 それでも、悶々とした侭で眠りたく無い。一言だけでも良かった、声が聞きたい。 携帯のフリップを開いて、蒼の番号を選ぶ。少しだけコールして、ダメなら諦めようと思った。 思いの外、ドキドキしてしまう。何度かのコール、切ろうと思った時に蒼の眠そうな声が聞こえた。 「ん~、えりさんだ…」 「ごめん…寝てたね。おやすみなさい…」 「もう、ちょっと待ってよ。折角電話くれたのに…どうしたの?」 寝ぼけながらでも、優しい話し方の蒼。どんな姿でいるのか想像できない。 「寝る前に、声が聞きたくて…ごめんね」 「良かった…本当は、さっき迄電話片手にウロウロしてたんだ。寝ちゃったけどね」 嬉しそうに、そう蒼は話した。裏切っている気分も少しある、それでも蒼の事は好きなのだと感じる。 「ありがと、嬉しいわ。でも、本当に声を聞きたかっただけだから…」 「そう、僕もゆっくり眠れそうだ。えりさんも、寝てね。あのさ…えりさん」 「なに?」 「好きだよ…おやすみ」 「ええ、ありがとうね。私もよ…おやすみなさい」 蒼の一言で、顔が火照る。かえって眠れなくなりそうだ…
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