第六章

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そういえば、親から結婚を急かされなくなったのは、いつ頃からだろうか。 ああ、そうか…弟に子供が出来た時からだ。 『良い人はいないのかい?』 二十代半ばから、折に触れそう聞かされた。田舎に住む母にしてみれば、当たり前の事だったのかも知れない。 意外だったのは、父親の反応だった。さほど娘の結婚には口を挟む事は無かった。 小さいけれども、地元の企業で働く父親にしてみれば、働く事の大変さを理解しているからなのかも知れない。 『まあ、あんたの人生だから…しっかりやりなさい』 正月に帰省した時の、母の言葉。弟の子供を可愛がる姿に微笑ましさと、少し寂しさを感じた。 『それはさ、娘の子供の方が可愛いものよ…女にしたらさ、娘の子供は直系だもの』 高校の同窓会だっただろうか、早くに結婚した友人から、そう聞かされた事もあった。 実感は無いけれども、なる程とも感じた事は覚えている。息子の子供は、所詮他人が産んだと感じるものらしい。
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