第六章

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この際、中止したって構わないとも思えた。取り立てて北京に用事があるわけでもなかった。 榊のほんの気紛れで決まった日程でもある。他のスタッフが参加しない事を、榊はどう感じるだろう。 少し遊ばせてやろう…そんな意図もあったのだと思う。 残念な表情を浮かべるだろうか?それとも、気にしないだろうか。 ずっと榊は強い男だと思い込んできた。けれども、どうやらそうではない。 案外こうした些細な事でダメージを受けるのかも知れない。そう思うと、様子を確かめたくなった。 メールでも、電話でも構わない用件だ。PCでスケジュールを確認すると、午後一には来客予定がなさそうだ。 「はい、秘書課佐藤です」 「佐野ですけど、午後一番で伺うから伝えてくれる?」 「わかりました、お伝えします。え~っと佐野さん、出張のお話なのですけど…」 「ええ、聞いてるわ。何かあったの?」 「すいません、母が入院する事になってしまって…あの、社長のお世話お願いします」 思わず吹き出した。結局、近くに居る者には色々とばれているものなのだ。 お世話と云う言葉に、そんな事が集約されている気がする。 気が付いていないのは、男達だけかもと思うと少し愉快だった。
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