第六章

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お互いに話したい事がある事は理解していても、暗黙の了解の上で時間は過ぎてゆく。 これが単なる恋愛ならば、大人の駆け引きで済むけれど、そうは簡単で無い。 それが嫌かと云えば、複雑な心境でもある。実の処、こうした駆け引きが嫌いでは無い自分もいる。 矛盾しているのだと自分で感じる。しがらみの無い蒼との関係は新鮮で、硬く守っている鎧を剥がされる嬉しさがある。 それが解放される喜びであるなら、榊との関係は同じ価値観で過ごせる喜びであるように思う。 「そう云えば、まだホテル住まいなんですか?」 「そういう事だ、部屋に私物が増えておかしな事になってる。まあ、掃除も洗濯も必要ないから有難いな」 「そんなものですかね、ご自宅はもぬけの殻ですか?」 「中々な、難しいんだよ。戻ろうかと思ったんだけどな、お手伝い雇ったところでどうせ昼間にさせる事も無いしな」 「そうですね、実際寝るだけですものね」 「まあ、それが逃げられた原因でもあるだろうな」 逃げられた…自嘲気味に笑いながら、そう話した。
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