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溜まっている郵便物、カードの支払い、パスポート探しまで手伝わせたと話した。
中国への同行は、そうした事への気遣いでもあったみたいだった。
「なるほどですね、それで社長のお世話を頼むって…そんな話になったわけですね」
「まあ、そんなとこだな。面倒でかなわんな、色々あるもんだな~やる事が」
これ迄、気に掛けた事など無かったのだろう。日常で生活する以上、細々とした雑事はある。
離婚して、初めて気が付いたのだと思う。
榊も、普通の男だった。支えられていた事に気が付いていなかっただけで、奥さんは榊の為に色々していたのだろう。
その点は、立場や資産があろうが変わりない事だろう。
「佐野、週末の予定は…いや、すまん…忘れてくれ」
慌てて、言葉を取り消す榊。その様子が妙に可笑しかった。
「取り消すんですか?」
「あっと、取り消さなくても良いのか?仕事の話じゃないぞ」
「さあ、どうでしょう?携帯にメールでもくださいな」
驚く程不器用な誘い方、そんな男だったんだ…蒼の前で、鎧を剥がされた私の様に、榊も私の前では、無防備になっている気がした。
「ずるいよね~あれは…」
社長室を出て、エレベーターの中。独りそう呟いてしまう。
『佐野…』榊にしては、珍しい呼び方だと思った。普段は、お前としか呼ばなかった。
榊自身、わかっているかどうかもわからない。けれども、微妙な距離感にいる事も現実だ。
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