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それでも、別れた事を話す榊の表情はさっぱりとしたものだ。以前、その話をした時の苦悩は感じられなかった。
「あら、ご冗談に出来る様になったのですね」
「引き摺っても仕方ない話だろう、アレとは価値観が違ったんだ。生き方だとか、娘の事にしてもそうだな」
「アレとは酷いですね。同じ女性としては、いただけませんよ」
「まあ、そう言うなよ。他では十分気を遣って話してるさ…」
そう言いながら、グラスの細い部分に手を掛け私の方へ一度傾けてから喉に流し込む。
液体が流れ込む喉もとが、軽く上下に動く様が妙に色っぽく感じた。
朝方まで蒼と過ごした、多分ただ寄り添って眠りについただけだとは思う。それでも、昨日の昼には蒼に抱かれていた。
色欲にかられている気はしない、けれども何故だかこの男を抱きしめたくて仕方ない。
榊はどう考えているのだろうか。まだるっこいけれども、それ程簡単な話でも無い。
けれど今この瞬間に、榊を癒せるのが私だけなのだと感じるのだから…それは間違っているわけでは無いだろう。
食事を終えて、店の外でタクシーを拾う。私を先に乗せ、見送ろうとする榊の腕を引いた。
軽く視線を合わせてから、榊が私の横に乗り込んだ。
行く先を告げないで、窓の外を眺める私に変わって、榊は自分のホテルの名前を告げた。
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