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タクシーの中で、偶然に指先が触れる。榊も私も無言で前を向いた侭、左手の小指を榊の親指と人差し指が挟む様にして上下に優しくなぞる。
私はされる侭にしながら、その指先の感触を味わっている。普段ならば、何も感じない指の先端がまるで敏感な触覚の様に存在する。
指先から伝わる、わずかな感覚は意識する程に身体の芯へと伝わってゆく。平然とした素振りでいるものの、それは充分に行為の前触れといえるかも知れない。
そんな風に私が感じている事を、知っているのか、榊は軽く目を閉じたままでその指先以外、身じろぎもしない。
ホテルに着くまで、十五分程。榊と私の密かな行為は続いた。
榊はタクシーを、ホテルの地下駐車場へ誘導する。
「先に上がっててくれ、それとも地下でワインでも買ってくるか?」
「お酒はもう充分…エレベーター上がった処で待ってます」
フロントで榊だけが降りて、私はそのまま上に昇る。一人きりになった明るい個室の中で、トンと壁に背を任せて無機質に点滅するランプを見つめた。
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