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「良いのかね?えりちゃん…」
エレベーターを降り、彼を待つ。鈍い光を放つ閉じた侭の扉に、ぼんやりと私の全身が映っていた。
そのぼんやりした影に、思わずそう呟いた。冷静に考えれば、はしたない女と言われても仕方が無い状況ではある。
二股を掛ける…そんな単純な事でも無かった。どちらも大切に思えて選べない、後悔はしたく無い。
ぼんやりとそんな事を考えていると、目の前の扉が開き、榊が姿を現した。おいで、そんな風に目配せをして、ゆったりとフロアを先に歩いてゆく。
私もその背中について歩く。カチャリと鍵が開くと、片手でドアを開けて私を先に部屋へと通した。
背中に軽く榊の手のひらが触れる、最大限私に気を遣っている事を感じる。
思わず頬が緩んでゆく…ゲストルームのソファーに並んで腰掛けた。そのまま、頭を榊にあずける様にもたれ掛かる。
「何だか、拍子抜けするぐらい嬉しいよ」
「何ですか、それ…」
予想していなかった言葉の言い回しに、小さく笑いが込み上げる。榊の胸にあずけた頭を少し動かして、下から顔をのぞき込む。
照れ臭そうな表情が、可笑しかった。榊は少しだけ顔を下に向けて、私をのぞき返す。
「ああ、多分もう誘ってもダメだろうと思ってたからな…」
「どうしてですか?そんな風に見えました?」
「なんとなく…そう思ったんだ。誰か男でも出来たのかと」
「あら、妬いてくださってます?どうですかね…私にもわかりません」
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