第六章

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「やっぱりお前は、男前だな…話さなきゃ良いものを」 「あら、それは褒め言葉ですか?あまり褒められてる気はしませんけれど」 その問いかけには応えず、榊が話し出す。 「なあ、離婚した男はモテるらしいぞ。しかも、俺なんかは随分お買い得だと思うけどな」 「随分と直線的な口説き文句ですね…お買い得って」 「そうか?まあ、確かに色気は無いな」 榊なりの精一杯の口説き文句なのだろう。どうやら、恋愛に関しては勝手が違うらしい。 「最近は、おもてになるんですね。どうせなら若い綺麗な子でも口説けば宜しいのに」 「はっ、馬鹿らしい話だ。若くて綺麗な事にどんな価値がある?遊ぶだけなら良いだろうが、会話すら成り立たない相手と時間を過ごすなんて、考えたくもない」 「社長も面倒な人ですよね…」 「お前も、似たようなものだろうが」 そうかも…と、そう思う。若ければ直情的に求めるだけで良かった。この年齢になれば、少なからず先々のパートナーとして相手を見なければいけない。 自分にとってのスタンスが何も無ければ、一緒に築き上げると云う事もあるだろう。けれども、今更出来上がった価値観やスタイルをもう一度作り上げる事は並大抵の事では無い。 自分らしくいられる相手を選ぶか、自分を変えても構わないと感じる相手に出逢うか…ハードルは低くくない。
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