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第六章
強さしか見えなかった男。その影に弱さを見つけた時、支えたくなってしまうのは私が女だからだろう。
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「悪かったな、呼びつけたみたいになって」
先に店で待っていた榊が、そう話す。何時もの余裕な態度を見せているものの、少し落ち着きが無い風にも見える。
「あら、別に構いませんよ。予定があればお断りしますもの」
何故だか、目の前の榊が可愛らしく見えてしまうのは不思議な気がした。
年下の蒼に対して、あれ程余裕が無くなるのに榊に対しては、緊張もしない。
「まあ、明日は仕事だからのんびりとはいかんが、少し付き合えよ。普段、ゆっくりと話す暇も無いからな」
恐ろしく忙しい日常と、予定の無い休日。普通であれば、それは休息になるのだろうけれど、榊にとっては苦痛なのかも知れない。
おおよそ、趣味だとかとは無縁の男だと思う。ゴルフなどは、最低限仕方なく付き合う程度だと聞いている。
考えて見れば、仕事以外の話題など娘の事しか聞いた事が無い。
以前、何かの折に聞いてみた事がある。趣味とかは無いのですか?…と。
『趣味ね~会社経営だ。今の処、これ以上に面白い趣味は無いな。考えてみろ、こんな趣味が持てる奴はそんなにいないぞ』
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