第七章

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榊は、週末の誘いを掛けてくるだろうか?もっと、私の知らない榊を見たくもなっている。 そんな事を考えていられるのも、束の間で容赦なく日常に埋没してゆく。 午後八時、漸く最後の打合せが終わる。無理に週末を休みにする分、しわ寄せは残業と云う形ではね返る。 「お疲れ様、先帰るね」 まだ残っている社員に声をかけて、部屋を出る。エレベーターを降りると、ビルの正面入口のシャッターが閉まっている。 これも、何時もの事だった。打ち合わせで直帰でもしない限り、シャッターの開いている時間に帰る事など無い。 守衛室の横、細い通路を歩いて裏口の重たい扉を開ける。 誰かと連れ立って帰る、そんな事もめっきり無くなってしまった。スタッフ達と食事にゆく事はあっても、所詮女の上司と云う立場は厄介でしか無い。 特に、榊に近いと理解されている私の前では、会社への不満も言い難い事はわかっていた。 連れ立って歩く、会社帰りの人々を眺めながら、賑やかな街を歩く。その賑やかな光景が、余計に孤独を感じさせてしまう。 考えて見れば、その寂しさを埋める為にSNSで蒼と知り合った。少しの、ささやかな遣り取りが嬉しかった。
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