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「らしく無いですよ…そんな弱気な社長って」
「らしく無いか、身も蓋もないな。忘れてくれよ、恰好悪いからな」
この男から、こんなに素直な言葉を聞かされるとは思わなかった。切なさが拡がってゆく。
「軽くお付き合いしましょうか?何処かのBarで…」
榊が笑いながら答える。
「いや、やめておくよ。恰好悪いだろう?情けない姿は、お前には見せたくないからな」
ズルいかもとは思いながら、明日の予定を考えていた。深夜に戻っても、睡眠時間が減るだけだ…と。
週末の予定を聞かないのは、多分私が言い出さないからだろう。強い男、その仮面はとうに外されている。
「社長、強がってます?」
「ああ、そうだ。強く見せるのも、俺のやり方だからな。すまんな、愚痴に付き合って貰って」
「いえ、気になさらないでください。滅多に聞けない弱気な発言ですからね。レア物ですよ」
「そうだな、まあ世間には内緒にしといてくれよ。じゃあな」
切ない気持ちを抱えたままで、榊の電話を切る。蒼との約束がなければ、私はどうしただろうか?
間違いなく、タクシーに飛び乗って榊の元へゆくだろう。
もし、榊が『来てくれよ』そんな言葉が飛び出せば、やはり榊の元へ行っただろう。そうして、その後榊の側から離れる事は出来ただろうか。
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