第十一章

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わずか数時間、ビジネスシートに榊と並んで日本へと向かう。 ラフな格好の観光客に混じってみると、私達は少なからず異質に感じる。 それでもビジネスシートにはそうした人々は少なくて何故だか居心地が良かった。 榊は暫く他愛ない会話をしているうち、眠ってしまった。 考えてみれば榊の眠る横顔を見るのはここ数ヶ月の事だ。これまで出張に同行しようが、他人の前で眠りこける様な姿は見たことがない。 もっとも海外のような長時間の移動に同行する事は初めてなのだけれど… 無防備な寝顔を見せられるのは、悪い気分である筈はない。 歳相応に刻まれた目じりのシワも、髪に少し混じる白い毛も嫌ではない。 それなのに、日本へ近づくにつれ無理に追いやっていた蒼の事が頭に浮かんでくる。
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