第十三章

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午後八時、正面の入口は既に格子のシャッターが降りている。当然の様に警備員に声をかけて社員の通用口からビルの裏手に出た。 大して広くもない裏口前の道を挟んだガードレールに、身体をあずけて私を見つめる存在に気が付いた。 視線が合った事を確認する風に、彼女は真っ直ぐに私に向かって歩き出す。 硬い表情に射止める様な視線、サラサラな黒髪は忘れる事は出来ない。 敵意剥き出しでツカツカと近寄る彼女に対して私は身動きが出来なかった。 それでも私は口角を少し上げて笑顔を作ろうとするのだから、不思議なものだ。 数歩先で彼女が立ち止まる、私は頭の中で色々な想定をしていた。けれども彼女の行動は想定していたものではなかった。 「こんな風にお伺いしてすいません」 真っ直ぐに私に身体を向けて、ピンと伸びた背筋が丁寧に曲げられる。 随分、躾の行き届いた育てられ方をしたのだろうと、状況もわきまえず妙な感心をしてしまう。
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