第十三章

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「お呼びたてして申し訳ありませんでした」 「なんだ、いきなりそう真面目に出られると困るな」 「そうですか、まあ立場上そんな風が相応しいかと」 榊は寂しそうに笑いながら控えていたスタッフを呼んだ。 「何か美味しい泡と、適当に合わせて軽い食事を頼む」 いつもの雰囲気と違う事は察しているのだろう、彼女は細かな要望も聞かずに頭を下げて立ち去った。 「で、役員連中に引きとめられたんだって?」 「そうですね、思いも掛けませんでしたけれど。ああもずらりと並んで話をされると流石に揺らぎますね」 ふぅっと溜息をついて榊は私を見つめている。 「そうか…そりゃそうだな。お前は、そこ迄自分が評価されてる事に気が付いていなかった。やっぱ仕事は続けたいって事か?」 会話の隙を見計らう様に冷えたボトルが運ばれてくる。私も榊も無口なままで、グラスが満たされるのを見つめていた。 彼女が歩き去るのを待って、榊はグラスを持ち上げた。 「俺は仕事に勝てなかったって事かな。窮屈で敵わんな…」
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