第十五章

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あれから五ヶ月、とにかく慌ただしく時間が過ぎた。 榊の召集した役員会では不満が噴出したものの、役員連中は銀行やら関連する会社からの出向で母体が了承している事に逆らえる筈もなく会社の合併は進んだ。 社名も当面は変わる事もなく、一部の役員とお飾りの社長が送り込まれてきたけれど通常の業務に差し障りはなかった。 それでもベンチャーの頃からの企業風土はおのずと変わり始め、榊の“失敗してもやってみろ”といった手法は通用しなくなった。 何をするにも、上の決済が必要になり仕事が随分遣りづらくなってしまった。 榊を感じられない事も大きいのかも知れないけれど、あれだけ自分に大切だと感じていた仕事は急速に色褪せてしまった。 私の手持ちの株式は、合併の発表で随分と価値を上げて買い取られる事になった。 有価証券報告書を見れば、私の手元に残る金額は誰の目にも明らかで、その事も私を会社にいずらくさせた。
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