第十九章

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「そうなんですか?」 愉しそうに榊が答える。髪を撫でていた指が首の後ろから回り込み首筋を撫でる。 「そうだよ、今の言葉だってお前に嫌われない為に格好つけてるだけかも知れないぞ」 「正直なんですね」ふっと榊が笑う。 「そうだよ。俺は何時だってお前の前では正直だったろ?」 確かにそうだった…社員や役員にも見せない姿を、何故だか私にだけ見せていた事は知っている。 恋愛感情もなにもなかった頃から、榊は私に対して変わらない。 「そうですね、あなたはいつも正直でしたね。秘書の娘や役員の皆さんは大変そうでしたけれど」 「そうだな。まあ、あれはあれで必要なポーズだったんだから仕方ないさ」 「きっと、今頃皆さんクシャミしてますねぇ」 「まあ、ホッとしてる事だけは間違いないだろうな」 「気になりますか?会社の事…」 「会社?どうだかな。これっぽちも気にならんと言えば嘘だろうがな、俺にとっては過去だよ。郷愁に浸るほど暇じゃない」
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