第十九章

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終わった事柄は過去のもの、それは前を向いている人間にとって当たり前の事なのだろう。 つい聞いてみたくなった。きっと意地の悪い質問だろう、と思う。それでも、口からもれてしまう。 「晴美さんや娘さんの事は?」 一瞬榊の指先が止まり、また動き出した。 「今日のお前は意地が悪いな。まあ、でも避けては通れない話でもあるな」 「ごめんなさい…今のは忘れて下さい。無神経すぎますよね」 榊が口を開くのに、少しだけ時間が過ぎた。拒絶していない事は、指先の動きで分かる。 「いや、むしろ前向きに考えてるって事なら嬉しい話だな。晴美の事は別にしても、娘が可愛いのは一生変わらんだろう」 「そうですよね。ご自慢の娘さんですものね」 「嫌か?」 「そんなわけ無いですよ。娘さんが過去だなんて答えたら、今すぐ此処から出てゆきますよ」
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