第十九章

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もしかすれば、私が見逃していただけなのかも知れないとも感じた。 「そうですね…俊介さんには当分先の姿ですけどね」 「ああ、そうだな。もっともだ、やり尽くさないとあんな風には成れそうにないな」 何故だか不思議に心が落ち着く時間だった。食事に時間をかけない榊も二杯目のカフェオレを注文してまったりと時間を過ごしている。 何をするわけでもなく、ただ座って海を眺めているだけなのにこれまで以上に榊を身近に感じている。 「そうか、こう云う事が出来なかったんだな。俺は」 「どうしたんですか?急に」 「ん?ああ、何だかな。目的の無い行動や意味のない事は全部無駄だと思ってたんだ、だから休むなんて行為は俺にとって最低な時間だった」 初めて見る榊の穏やかな表情なのかも知れない。もちろん此れまでに色々な榊を見てきた。 厳しい表情や苦悩の表情はもちろん、笑ったり微笑んだりするところも沢山見てきた筈だった。 それでも今の榊はそのどれとも違う優しい表情を浮かべている。思わず胸がキュッと音をたてそうに感じてしまう。
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