第2話

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『…良かったのか?そんなにあっさりと許しちゃって。酷い事、されていたように見えたけど?』   美海は少し俯いてから、敦を見つめて顔を上げた。 「…いいの、謝ってくれたから。…もうしないって、約束してくれたから。」 美海は、真っ直ぐと敦を見つめていった。 一点の曇りのない眼差しで。 敦は、ストッと美海の横にしゃがみ、頬杖をついて美海を見つめた。 まだ世の中の汚さや、ずる賢さにまぎれていない、キラキラ光る純粋で大きな瞳が、敦を見つめ返していた。 『…そっか。』     相手を恨むことなく、素直に相手を受け止め、相手が間違えを認め反省すれば相手を許す優しい心。 6歳にしては洗練され過ぎなのではとも思える態度に、圧倒された。   何も美海に言って あげられる言葉はなかった。 美海からあまりにも純粋な輝きの真っ直ぐな瞳で見つめ返されたので、瞳を逸らしたい気持ちでいっぱいで。 むしろ、自分は少しやりすぎたのだろか、小学生相手に…とも思えた。 美海は、目の前で長身の中学生の制服を着た敦が、 小さくしゃがんで首が少しうな垂れていたのを見ると、小さな手で敦の頭を優しくなでながら、 「ありがとぅ」 っと小さく呟いた。   か細い美海の声に反応した敦は、そんな不安そうに見つめる美海に目線を合わせて、 『…少しは、役に立てたって思ってもいいのかな。』 っとボソッと呟いて、首を数回フルフルと左右に振った後、口元をニイッと歪め て、ヒョイッと美海を持ち上げた。 『この前は、…ごめん。』 君は黙って、俺の瞳を見つめていた。 俺は、そんな君を見つめ返して、 『…ありがとう。』   そう自然と口が動いて、君の身体をオレンジ色に色付く夕日に向けて掲げて笑ったんだ。 君の身体は小さくて華奢で柔らかくて温かくて。 こんな自分も少し、ほんの少し。 何か変われそうな、そんな気がした。 ざわめく春風に乗せられた夕日まで、沈みゆくのを躊躇うかのように君の瞳が眩しかった。
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