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敦─。
私の制服姿を見つめた後、敦は春風泳ぐ空を仰いでいた。
私もつられて視線を上げて、貴方の瞳に映るものが何なのかとぼんやり考えていた。
敦に出逢ったあの頃─。
小学1年生にあがりたての6歳だった私は、まだ右も左も分からなかった。
けれど、あの雨音響く公園で声をかけられた時から、貴方への歯車が回り始めていたのかもしれない
─貴方に助けてもらってから、ずっとずっと。
男の子3人に、からかわれていた私を助けてくれた貴方は、
《 この前は、ごめん 》
《 ありがとう 》
そういって、貴方は少し照れくさそうに笑って、私を抱きかかえてくれた。
私は、あの時の貴方の言葉の意味がわからなかった。
けれど、笑顔の貴方につられて微かに微笑んでしまったの。
お母さんがいなくなってから、今まで笑った記憶がなかった自分が。
久しぶりに口元を緩めたからか、口元の筋肉が少し痛痒い。
貴方の笑顔は、なんだか懐かしいような寂しいような、胸が熱くなる。
そんな気持ちにさせられた。
初めての感覚、不思議な気持ち。
胸の内側がこそばゆくて、ジレッタイ。
チラッと見つめると、背の高い制服を着た隣の貴方も、目を緩めて微笑んでくれた。
私は、ギュッと親指に力を入れてスルスルと解ける緊張の糸を引き締めて、口をつむぐ。
まるで押し流される何かを我慢するかのように。ギュッと─。
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