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『俺は、海堂敦!俺のことは、<あつし>って呼んでいいからな!
その代わり、お前のことも、美海!って呼ばせてな?なんか…<ちゃん>付けで
呼ぶのは、恥ずかしいからさ。家も隣なんだし、これからも宜しく、な?』
語尾を上げて、敦は私にそう言うと、ニィッと口を緩めて笑って見せた。
私は黙って、コクリッと頷いた様に頭を揺らせた。
背の高い貴方に目線を上げると、赤い空をバックに、敦の前髪がゆらゆら左右に揺られていた。
赤い夕雲が遠くの山々まで連なり、始まりの宴の前触れであるかのように鳥どりまでも騒がしい。
一直線に伸びていく飛行機雲のオレンジの線が自分を応援してくれているよう
な、そんなフワフワする気持ちのまま私は、手を引かれながら敦と並んで公園を
抜けていった。
向かい風が、お下げのサクランボのゴムを揺らして頬をすり抜け、駆けていく。
自分の重く切ないものまで一緒に引き連れていくかのように風が抜け、
一瞬、心に絵の具が落ちたような気持ちになる夕暮れだった。
一歩一歩進める足元の感覚が今までとは違うような、そんな足取りの自分が少し
怖くも思えた。
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