第2話

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敦は自分のことは、何も語らない。 私のことだけを心配して、気にしてくれるだけで。 自分のことは話さず、語ろうとしてくれなかった。 私が幼いから、話しても意味がない、っと思われているのだろうか。 だから、自分は敦の事を何も知らない。 何も─。 そう思うと、早く大人になりたい…そんな気持ちが心の奥でうずきだした。 今まで思ったこともない感情でどうしていいかわからない。 でも、敦に話すわけにもいかない。 そっと閉まって蓋をして、時間が経てば自分も大人になるのだから…と思うようにすることにした。     敦と帰れる約束をしている日は、チャイムの音が待ち遠しくて、時間がゆっくり 動いているように感じるのに。 今日はあっという間に一日が過ぎていった。 だいぶ聞き慣れてきたチャイムの音も、今日は元気がないようにも感じる。 鈍くてスッキリしないメロディーを、私以外誰もいない教室と、校舎中に撒き散らす合図。 〈もう帰っていいんだよ、いい加減帰りな。〉 そう言われて追い出されるような。 そんな感覚のまま、美海はランドセルを肩にかけて、一人最後に教室を出た。   それからも敦に会えない日々が続いた。 今月に入ってから、もうすぐ2週間が経つ。 まだ1度も敦の優しい笑顔に逢えていない。 忙しいからってわかっていても、嫌われたわけじゃないんだって頭ではわかっていても。 まだ出会ってから半年位しか経っていなくても。 傍にいて笑ってくれる笑顔に逢えないことは、やっぱり寂しかった。   そよ風に揺れる花を見つめては耳を傾けた、貴方の声が聞きたくて。 晴れ渡る夕空を見上げれば、滲んでゆく空に浮かんでは消えるあの雲のような掴めない笑顔がもどかしい。 見えない貴方の背中を追いかけていた。
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