第2話

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いつからだろうか─こんなに美海を想うようになったのは。 自分は13歳の中学生、彼女は6歳の小学生、だけれど俺はロリコンではない…。 そう恥ずかしい気持ちもあったからか、始めは─。 本当に始めは、同情のような軽い気持ちで、彼女を助けようと思ったんだ。 でも─いつのまにか。 放課後にもかかわらず、この季節の校舎はどこか活気付いて見える。 文化祭前の独特なソワソワするこの緊張感。 廊下を走る音や、裏庭や校庭等で看板や出し物の作業をする音や、ざわめき声が 学校中を囲むような、熱気に包まれる感覚。 いつも足早に過ぎ去る時間が、少しだけ色づく一大イベント、学園祭のシーズン 到来に生徒達は期待と焦りを隠せずにいた。   「今日のテーマは、引き続き文化祭の出し物についてです。ここ最近、打ち合わ せしているのに全然決まらないから、うちのクラスは何も出し物できなくなりま すよ!皆さん、真剣に考えてください!!」   声を張り上げて、ここでも、学級委員と文化祭実行委員が熱を出している。   中学2年の2学期、学園祭も間近に迫った9月。 自分は、文化祭実行委員に推薦で選ばれてしまった。 とくにやる気のない自分に<中学時代の青春を…>との話で、俺が体調を崩して 休んでいたその日に、突然クラスの皆が俺を推薦して選び、決まってしまった、 との話を先週、事後報告で受けたのだが。 …阿呆らしい。 心底、そう思う自分が居た。何が、<中学生の青春を…>、だ。 自分には関係ない、という表情で、教室の窓際の一番後ろに座っていた敦は、自 分の座席から見える真横の窓から、隣の小学校の校舎の校庭を戯れながら走り回 っている、少年や少女達をぼんやりと見つめていた。   赤や黒やピンクや緑色のランドセルが束になって、校庭の砂場辺りに放り投げら れている姿は、秋に咲く鮮やかなチェリーセージのようで、どこか哀愁さえも感 じられた。敦はその中でも、薄い桃色のランドセルを背負った女の子に目が留ま った。 長いポニーテールをした女の子と一緒に下校している、短い髪の女の子に。  
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