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『~っ、』
ガタッと椅子を思い切り引いて、勢いよく立ち上がる。
机の上におもむろに載せていた鞄が、大きな音を立てて椅子を引く音と混ざっ
て、床に転げ落ちた。
一気に、委員会のメンバー皆の視線を浴びてしまった。
今まさに、右斜め前の女子生徒が案を出して意見を言っていたところだったの
に、急に敦の大きな椅子を引く音と物音が、彼女の意見をブツリと切ってしまっ
たのだ。
流石に今まで、こんなに大勢の視線を集めたことはなかったので一瞬口をつむい
だが、すぐに仕切りなおして、
『…体調が悪いので、帰ります』
っと、床に落ちた鞄をサッと拾って出口のドアに足を向けると、
「お待ちなさい!海堂君、あなた委員をやる気あるの!?毎回毎回逃げられると
思わないことね!」
そう、一人の女子生徒が突っかかってきた。
学年主席でもあり、真面目な性格である彼女─高木 愛子は、実行委員長を務めている学年の女子代表でもあった。
『…は?』
足を止めて冷ややかな目で愛子を見た。いかにも主席らしい黒いメガネをかけた長い黒髪の彼女も、こっちに向かって眉を顰めている。
愛子の隣に立っている、気弱で色白の副委員長の近藤君は、彼女に気があるらしく、そんな気の強い彼女をとめることなく、黙ってこっちを見ているだけだった。
「あなたはっ、少し顔がよくて皆に、ちやほやされていますからって、委員会も
適当に乗り切れるなんて、そう人生甘くなくてよ!私はあなたにも頑張って楽し
い文化祭にしてもらいたい一心で、今日は引き止めさせて頂きます!きっと体調
なんて悪くないのでしょう?私には、おみ通しなんですわよ!さぁ、席にお戻り
になって下さいっ」
愛子のキンキンと高い声が教室に響き渡った。
…どこの女王様ですか。
いまどき、先生にだってこんなキャラ…いない、っての。
敦がうんざり顔で頭をかきあげて、窓の外に視線を送った。
先ほどまでは晴天のような天気だったのに、急に雲がどんよりと薄暗い色に変わっていた。
窓から入って流れる風に少し湿ったような、哀しい重みのする温い風が敦の頬をするりとなぞる様に抜けていく。
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