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俺は、雨の中しゃがみこんで蹲っている女の子に気を止めた。
別に助けるつもりは無かったが、
目の前でたった1人で泣いている小さいな女の子を無視して帰るほど、
まだ自分は腐ってはいない。
女の子の傍まで、ゆっくりと歩みより、
女の子の横にしゃがみ込んでみた。
横に並んでみると彼女の身体は、立っていた時よりも小さくみえた。
俺は、自然と自分の手に持っていた白いビニール傘と、
ズボンのポケットから紺色のハンカチを差し出して、
彼女に声をかけていた─
『おい?大丈夫か…?』
女の子は、自分に気付かない素振りで、
小さな体を丸めながら小刻みに身体を震わせて、
声を押し殺すかのように泣いていた。
なんて声をかければいいか悩んだ矢先、
女の子のピンクのランドセルの右側にぶら下がっていた
出っ歯のウサギのキーホルダーに
<つきしま みう>とひらがなで名前が書かれているのが目についた。
名前の脇に、月島歯科医院というロゴも書かれている。
『君…、みうちゃん?月島美海ちゃんだよね?』
今度はそっと優しく女の子に声をかけてみた。
女の子はピクッと身体を反応させただけで顔は上げなかった。
『もう、あいつら帰ったみたいだよ。俺は、海堂敦。
たぶん、月島って、うちの隣に住んでる月島さんだよね?歯医者さんの。
雨も降ってるし、身体もビショビショだから、一緒に帰ろっか?みうちゃん?』
そう言って、
蹲っている彼女の身体を持ちあげて起き上がらせようと軽く肩に触れると、
「~やっ!!触らないで!!」
っと、女の子は俺の手を避けて、睨みながら叫び声をあげた。
まだ小刻みに身体を震わせている。
少し触れた女の子の身体が、思っていた以上にひんやりと冷たかった。
『い、否、俺っ…』
言葉を続けようとしたが、女の子は、
自分の背丈程にしゃがみ込んでいた俺を、
力いっぱい押しのけて、走って公園を出て行ってしまった。
『人の…話をきけっての、冷てぇ~』
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