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あの女の子に押しのけられた際、
バランスを崩し、泥まみれの地面に尻もちをついてしまった。
恥を承知でやさしい言葉をかけたのに、この様か。
変に関わるんじゃなかった、かっこ悪い。
けれど、
この雨の中、声をかけて傘を差し出した行為は、
少し認めて欲しかったと思う自分もいた
心にモヤモヤしたものが残ったようで煮え切らない。
傍に落ちて<グチャッ>っと、
土まみれになって萎れた赤い傘を拾って、手元のハンカチでコシコシッと拭いた
愛想もなく、可愛くない奴
これが、彼女の第一印象
でも、なぜだろう。
こんなに苛々するのに、
雨音響く公園で一人佇むあの女の子の涙を浮かべて睨む瞳が
脳裏に焼き付いて離れない。
その日の夜、寝る間際の深夜過ぎ、
隣の月島邸の庭先を部屋の窓から見下ろすと、
木立ちが梅雨闇に呑み込まれそうな程、深く暗い雰囲気に覆われていた。
家の灯りもついていなかったようにみえる。
湿気の多いこの時期は、
何故か見るもの全てが重くのしかかるように感じて仕方ない。
少し生ぬるい布団に仰向けで寝転がり、
ぼんやりと窓から見える彼女の閉ざされた部屋の窓を眺めていたが、
そのうち疲れて眠ってしまった。
翌朝は、ゆうべの厚い雲の雰囲気とは一変した、
明るい空が視界を一瞬まどわしたが、白雨だった。
学校へ行こうと玄関のドアを一歩出ると、
土の香りと湿気のが混じりのあった、
なんとも言えない重い気だるさがの渦が手前まできているかのような感覚に
飲み込まれそうになった。
重い頭を少し傾けると、
玄関の脇にある青梅雨が紫陽花に滴り落ちて行く様が、
どこか、泣いていた昨日の彼女の顔と重なって見えた。
それから暫く雨が続き、
放課後の帰り際にあの公園に回り道をして立ち寄ってみたが、
彼女─美海の姿は無かった。
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